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マサト先輩より。挫折は、自分次第で、物語になる

元騎手の柴田政人さんは、
当時、40代前半のベテランで、トップジョッキー。

直線で馬を追うのが特に上手で、
 =ケチな男が馬券を買うと・・・
  最後までしっかり追ってくれる騎手を好むようになる。
長距離にも強い。
 =本当に上手な騎手は、ペース配分や駆け引きができる!

 
ところで・・・
競馬界には「乗り替り」という言葉があります。

調教師や馬主は、持ち馬を勝たせたいから、
「勝てる」上手な騎手に「うちの馬に乗ってください」と、騎乗依頼します。

特に、大きなレースになれば、そうしたい。
依頼された一流騎手は、どの馬に乗るか?を、選択できるのです。

このような事情で、それまで乗っていた騎手から、
別の騎手に変わって、レースに出ることがあります。
これが「乗り替り」です。

柴田さんの場合、1レースに複数の騎乗依頼が来たとき、
騎乗する馬の選択基準は、
「勝てる馬、強い馬」でなく「これまで世話になった人の馬」でした。
そして、
それまで他の騎手が乗って、強くなってきた馬に
「乗り替わる」ことを、好まなかった。

「あなたが人の悪い騎手だったら、今日は2500勝記念パーティーだったでしょう」
・・・競馬評論家・井崎脩五郎さん(柴田さんの1700勝記念パーティーにて)

「過去に世話になった恩とか義理ばかり守っている、そして走らない馬、ダメ馬ばかりに乗っている、妙な男」
・・・先輩騎手・野平佑二(シンボリルドルフ主戦騎手)

「自分が割を食ってもズッコケても、他人を押しのけてまで乗り替わろうとしない。
見事すぎるほど、意地っ張りで頑固な男です」
・・・高松邦男・調教師

他の有名騎手が、そうしていたように、
ビジネスライクに騎乗する馬を選んでいたら、もっと、勝てていたはず。

学生になったばかりの当時の私は、
「柴田政人」のそんなところが好きだった。
同じ名前の
腕の立つ、ベテラン騎手が、そうゆう人であることに、
秘かに「誇り」を抱き、応援していた。

後日、この本を読んで、その裏付けを知る。

実話を元にした、エッセイ風・短編小説に、
21歳の少年騎手「柴田政人」が登場する。

駆け出しの少年騎手・柴田が騎乗していたアローエクスプレスという馬が、
順調に勝利を重ね、G1レースに挑戦することになる。
しかし、馬主からの指示で、
当時、リーディング騎手(年間勝利数・第一位)だった加賀武見を乗せることになった。
柴田は「乗り替り」されたのです。

結果、アローエクスプレスは、皐月賞2着。ダービーでは5着。

小説では、柴田少年の「アローに勝って欲しい」という気持ちと
でも「勝たないで欲しい」という気持ち。
入り混じった葛藤が、切なく、描写されている。

こちらは、別の文献より。
皐月賞の前、騎手変更が宣告された当日、
柴田は「自分が何かミスをしたのか、言ってみてくれ」と、
涙ながらに馬を管理する調教師の高松に直訴する。
高松調教師も、また涙を流し始め、
「誰よりも自分が乗せてやりたいが、馬主もファンも許さない。
アローは日本一になれる馬だから、日本一の騎手を乗せる。
悔しかったら加賀武見を超える騎手になれ」と諭した。

そして、柴田は、これから4年後、関東リーディング騎手になる。

そうか・・・こんなことがあったから、
今、そうしているのか・・・と、納得したものです。

同時に、中西少年は、こんなことを感じていた。
もしも柴田政人が、
ただ「乗り替わりされただけの騎手」で終わっていたら、
こうゆう物語は、生まれない。
(事実、そうゆう憂き目にあう若手騎手は、今も昔も大勢いる)

挫折を、挫折だけで終わらせたら、物語にはならない。
そこから、栄光に向かっているからこそ、この物語は成立している。
「うん、だから、俺も、そうしよう!」
「挫折は、自分次第で、栄光への物語になるんだ!」

「偉大な先輩・マサト」から「アホ学生・マサト」は、
そうゆうことを、感じていました、
ある意味での、勉強はしていたのかもしれません。

そして、
ドラマは、それだけで終わらない。
ダービーへと続く。


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